スクラムは会社でも組めるのか?~A型事業所~
高校の県総体。
年に三回は練習試合をする因縁の相手だった。
後半10分までは1トライ差で勝っていた。
土の匂い、スパイクの音、押し返す感触。
あの瞬間、確かに前に出ていた。
でも試合はひっくり返った。
押され始めたスクラムの中で、俺が思っていたのは一つだけだった。
「まだやれる。力を振り絞れ。」
そのとき聞こえたのはキャプテンの声だった。
短く、強く、「押せ」。
あの一言で、バラけかけた力がもう一度まとまった。
崩れたくなかった。
焦りもあった。でも声は止めなかった。
8人の呼吸が合えば、押し返せると信じていた。
結果は負け。
でもあの時間は、今も体に残っている。
社会人になって思い出した瞬間がある。
新人として入社した日。
意気込みを語った。声も張った。
けれど、先輩たちから返事はなかった。
あれ?
今、誰も押してない。
あのとき感じた静けさは、スクラムが組まれていない感覚に似ていた。
形はある。でも連携がない。
「何か変だな」と思った。
そして、この会社にずっといるべきなのかを初めて考えた。
スクラムで一番大事なのは体重でも技術でもない。
俺は「連携」だと思っている。
一人が強くても進まない。
タイミングがずれれば崩れる。
横のやつを信じて、同じ方向を向くこと。
それが揃った瞬間だけ、前に出る。
郵便配達員をしていた頃、
先輩に「新しく建った家、どこだ?」と聞かれたことがある。
地図も見ずに、すぐに説明できた。
「助かったわ」と言われたあの瞬間、
小さな連携が生まれた気がした。
会社も同じだ。
同じ部署にいても、同じ目標を口にしても、
連携がなければただ並んでいるだけだ。
誰かが一人で押していないか。
誰かが黙って踏ん張っていないか。
スクラムは会社でも組めるのか?
答えは、組める。
ただし本気で前に出る覚悟があるなら。
押されることもある。
無反応な空気に立ちすくむこともある。
それでもだ。
社会に出ても、少しずつでも常に前に進み続けろ。
一気に押し切れなくていい。
一歩でいい。
踏ん張って、呼吸を合わせて、また押す。
あの県総体のスクラムみたいに。
負け試合でも、前に出た感触は嘘をつかない。